2017/05/25

和田春樹、日本人最多説を葬る(アジア女性基金)


慰安婦の中で最多は日本人で朝鮮人は2割ほど・・・という推計をアジア女性基金内で葬ったのは、和田春樹東大名誉教授だった。

この話も、秦は自身の著書で触れているのだが、そもそもなぜ和田はこんな事をしたのだろうか?実は慰安婦の多くが日本人だったという事実は、日本人(特に日本の右派)が考えているよりも大きな意味を持っている。どういう事かと言うと、挺対協などは日頃、女性の人権問題などと言っているが、本心では慰安婦問題をあくまで戦争犯罪や「加害国と被害国」の問題として国際社会にアピールしたい。ところが、慰安婦の多くが日本人となると、日本政府による日本人に対する(戦争の手段としての)レイプであったり、日本政府による日本人に対するエスニック・クレンジングという奇妙な話になってしまう。しかも、それならなぜ(日本人を主体とした慰安婦でなく)韓国政府が先頭に立って日本政府に謝罪を要求しているのかと国際社会もいぶかしく思い始めるだろう。だから反日団体としては、日本人が多かったという事実は伏せておきたい。そういった裏事情を、和田のような左派はよく理解しているのである。

追記:いろいろ考えてみると、和田個人に限って言えば、反日運動に協力と言うより贖罪マニアとして日本人最多説は受け入れ難いのかもしれない。

日本政府がすべきは「性奴隷の否定」ではなく、慰安婦の正体(民族構成)を国際社会に明らかにすることである。アジア女性基金は政府機関ではないが、それに準ずる存在として国際社会でも認識されており、その公式文書にこの事が記載されることの意味は大きかったはず。それが分かっているから、和田は理事の立場を利用して葬ったのである。こういう事については、右派よりも左派の方が感覚が鋭い。和田らがいち早く手を打ったのに対し、日本の右派は今だ切り札を十分認識できずにいるようである。

秦の『慰安婦と戦場の性』の英訳が、内閣広報官のせいで流れた件についても触れられている。読売新聞の連載「時代の証言者」より。

時代の証言者

秦 郁彦 30
実証史学への道

慰安婦問題の春夏秋冬

図らずも慰安婦問題に私が巻き込まれてから、二十数年の歳月が流れました。

<<1993年8月4日、政府は、慰安婦問題についての河野洋平官房長官談話を発表した。この中で、朝鮮人の慰安婦の「募集、移
送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」と認定した>>

河野談話は、韓国と事前調整で譲歩した産物なんですね。日本軍が強制連行したとは書いてないが、そう読めなくもない玉虫色の表現です。実際に河野氏は記者会見で、強制連行を認めるのかと聞かれ、そうですと答えている

談話発表の前夜、慰安婦問題を担当していた内閣外政審議室の谷野作太郎室長から、私の自宅にファクスが届きました。談話の文案について感想を、とのことでした。一読した後、実害が少しでも減るように、「総じて」を「時として」などに修正されたい、と要望しましたが、採用されませんでした。

95年7月、元慰安婦たちに「償い金」を給付する半官半民の「アジア女性基金」が設立され、私は事実の究明に当たる資料委員会の委員を引き受けます。

ところが、慰安婦の総数は約2万人、最多は日本人で、朝鮮人は2割という私の結論は、和田春樹委員(東大教授)ら左派のお気に召さず、「東大には研究の自由はあるが、基金にはない」と宣告され、私の論文はボツにされてしまいます。

その頃、国連人権委員会の委託を受けたクマラスワミ女史が来日します。私は彼女に会い、戦時中にソウル(京城)の新聞に載った慰安婦募集の広告と、北ビルマで捕らえられた20入の朝鮮人慰安婦に対する米軍の尋問調書を渡しました。

前者は強制連行を必要としない証拠で、後者は、慰安婦に外出、廃業、社交の自由があり、軍司令官級の高収入を故郷に送金するなど「性奴隷」とはほど遠い境遇だったことを示しています。

しかし、人権委員会へのクマラスワミ報告(96年2月)には反映されませんでした。吉田清治氏の強制連行体験、「慰安婦をセックスースレイブ(性奴隷)と呼びかえよう」と説いていた戸塚悦朗弁護士の言い分の方が採用されたからです。

日本政府の事なかれ主義もあって、強制連行と性奴隷のイメージは、国際社会に広く定着した感があります。韓国ばかりか、世界各地に乱立した慰安婦像は60体を超えるありさまです。

無力感を味わっていた私は、せめて慰安婦と周辺事情の史的経過を実証的にまとめておきたいと考え、99年に『慰安婦と戦場の性』(新潮社)を刊行します。

2013年には、内閣官房で対外発信を強化する一環として、拙著の英訳プロジェクトが内定しました。

ところが、新任の内閣広報官から、もし、日本政府の後押しが露見したらまずいとの理由で、ドイツ、英連邦、米国、韓国など諸外国の例を記述した第5章などを訳出の対象から外したいと言われます。私は削除を拒否し、英訳プロジェクトは流れました。何度目かの筆禍体験でした。

(編集委員 笹森春樹)

読売 2017.4.25 10面